2010年04月21日

男と女の間には「人形の家」

「青空文庫」に入ってました。

 なんだかノラが知ってる人妻にすごくに重なって(世間知らずで短慮な性格とかも)しまって…というか、普遍的な夫婦(男女)のすれ違いがリアルにあぶり出された作品だと思った。
 「新しい女性」ノラの登場はフェミニズムの台頭に一役買ったようですが、この作品が最初に世に出た時から数えて(1879年!)も、現代のガラパゴスである日本ではなんとも古びないテーマ。(要するに根本はあまり何も変わってないってことか?)この二人が本当に夫婦となれる「奇跡」は起こるのか…。

 もはや古典でもあるようだけど、現代のドイツの劇団や宮沢りえの舞台でも記憶に新しいところです。(でも観てない)

 あと、読んでいて感心したのは、登場人物すべてに二面性があったというとこでした。ノラと夫ヘルマー、友人クリスチナ・リンデン、ヘルマーの友人ランク医師、クログスタット(とリンデン)、多分それぞれ1対1の会話があるから複雑な関係性も出てくるのだろうけど。
 夫婦でも、今まで知らなかった一面を見てしまうと、あーもうアウトだなって感じになったりね。
 ノラの隠し事(それを密かな自慢にしているノラもどうかと思うが)を知った時の夫の言動と、大事が収まるとわかった時の変貌ぶり(というか本性?)にはノラでなくてもああ?となるばかりです。

 幻想で成り立つ夫婦は、脆いね。


 以下は軽くネタバレ☆




 別れる2人もいれば、再会する2人もある。
 ちなみに演出によっては家を出ないバージョン、夫を殺してしまうバージョンが存在する模様。


印象に残った台詞:

ヘルマー「お前ほどの小鳥を一羽飼ふためにどれ位金がかゝるか人にいつたつて本當にはしないからねえ。」

ヘルマー「ま、お前はいつまでも、お前でゐて貰ひたいな、かうやつて可愛らしい小鳥のやうに囀つてね。」

リンデン「お氣に障つたらご免なさいよ。私のやうな不幸な身になりますとね、氣難かしくばかりなつてね、誰を當ともなく、それでゐていつも油斷してはゐられないし、第一生きて行かなくちやなりませんから、どうしても手前勝手になります。」

ノラ「つまりね、トルヴァルトが今のやうに私を愛してくれなくなつて、いくら私が跳ね廻つて、衣裳をつけたりお芝居をして見せたりしても、もう面白いと思はなくなつたら、その時取つて置きの材料があると都合がいゝでせう?(急に話を切り)あゝ、馬鹿々々しい!そんなことになつて堪るものか。」

ノラ「馬鹿野郎ッ! といつたらどんなにいゝ氣持でせう。」

ヘルマー「ま、考へてもご覽!一度惡いことを承知でさういふことをした奴は、一生涯嘘をついて眞面目な顏をしてゐなくちやならない。何もかもごまかして生きて行く。彼奴は自分の妻子にまで假面を被つてゐなくちやならないんだ。第一、子供にとつてこれほど惡いことはないだらう。」

ノラ「全體トルヴァルトが私を愛してることといつたら一通りや二通りぢやないんですからね、私の體を全く自分の物にしきらないと承知しないの、いつも自分でさういつてるのよ。ですから結婚した當座なんか、私が里にゐる頃親しくしてゐた人の名でもいはうものなら、もうすぐ妬きもちをやくのですよ。」

ヘルマー「仕樣があるものか、我儘女が剛情をいひ張つてる間は駄目だ、俺は人の物笑ひになつて嬶天下で頭が上らないといはれるだらう。」

ヘルマー「お前は私の理由を小つぽけだといつたから即ち俺が小つぽけなのに相違ない。小つぽけな!」

ノラ それは知れきつてるぢやありませんか、私かうやつて貴方とお話するのが何よりも好きですもの。
ランク それだ、私に思ひ違ひをさせたのは、あなたは私にとつちや謎だ。殆んどヘルマー君と同じやうに私がお好きなのぢやないかと、そんなことを思つたのも何度か知れません。
ノラ ね? さうでせう? 自分の愛する人も好きですけれど、話をして面白い人も好きですわねえ。
ランク 左樣――さういふこともいへますね。
ノラ 私、子供の折には自然とお父さんが一番好きでしたわ。けれど下男達の部屋へそつと入つて行くのが大變面白かつたのですよ、第一、下男達は私にお説教をしないでせう?それにあれ達の色々な話を聞くのが非常に面白かつたものですから。
ランク おや、おや、ぢや、私がその下男代りといふわけですね。
ノラ (とび上つてランクの方へ急ぎ行く)あらまあ先生、そんな意味ぢやないんですよ、ですけれど、おわかりでせう? トルヴァルトは丁度私に取つては、お父さんのやうなものですからね――

ノラ「えゝ、奇蹟。けれども非常に怖ろしいことなの、クリスチナさん。どんなことがあつても起つてくれちやならない事です。」

リンデン あなたは實際私をそんな薄情者だと思つていらつしやるの? 私があなたと別れたのはそんな簡單なことだつたと思つていらつしやるの?
クログスタット 簡單ぢやありませんか。
リンデン 本當にさう思つてらつしやるのですか?
クログスタット もしさうでないなら、なぜあんな手紙をよこしました?
リンデン だつて、あれが一番いゝ手段ぢやありませんか? 別れなくちやならない事情になつた以上、私に對するあなたの愛をなくさすのが一番よかつたでせう。
クログスタット (自分の兩手を握りしめながら)さういふわけでしたか? そしてその起りといへば――皆、金のためだ――
リンデン 私には頼りない母と二人の弟があつたことをお忘れなすつちやいけませんよ、私達はあなたの行末を當にして待つてゐるわけには行かなかつたのです。
クログスタット それであなたには、私を捨てゝ他人に見更へる權利があるのですか。
リンデン どうですか、私もそのことについては、折々自分が惡かつたか知らと思ひ直してみます。

ランク「それは君、この世の中で、何だつて償ひなしには得られるものはないよ。」



ノラ「あなたは決して私を愛していらつしやつたのではありません。愛するといふことを慰みにしてお出でなすつたのです。」

ノラ「さういふ問題は、私の力に及ばないのです。私にはそれより先に解釋しなければならぬ問題があるのですよ――私は自分を教育する工風をしなくちやなりません。それにはあなたの助けは役に立ちませんから、私獨りで始めます。」

ノラ 私には同じやうに神聖な義務が他にあります。
ヘルマー そんなものがあるものか、どんな義務といふのだ。
ノラ 私自身に對する義務ですよ。(中略)法律だつて私の思つてたこととはまるで違ふといふぢやありませんか。そんな法律は私、正しいとは信じられません。娘が死にかゝつてゐる父をいたはる權利も夫の命を救ふ權利もないといふのですから信じられませんね。
ヘルマー お前のいふことは子供のやうだ。お前は自分の住んでゐる社會を理解しない。
ノラ えゝ、わかつてゐません。これから一生懸命わからうと思ひます。社會と私と――どちらが正しいか決めなくてはなりませんから。


posted by くらぽー at 20:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 読んだ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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