2008年03月04日

恐怖という名の官能、官能という名の戦慄『痴情小説』

 えー、2度目の岩井作品です。短編集です。感想書くのも難しい。ただ、エロい話って読んだらフェロモンつくのかなー、これ読んでる間は目が合う人の(以下略

 岡山弁って、井戸の言葉と割と近いからするする入りますね。自分へのルーツへの複雑な思いも。

 岩井作品によく出てくる言葉は「嫌」「綺麗」「怖い」「懐かしい」「可憐」「罰」。これらは多分すべて故郷に対する同義語。

 一番好きなのは『朱の国』か『碧の玉』、どちらもベトナムが舞台ですね。『朱の国』には阿部進之介さんが似合うと思う。

 そして岩井作品を読むと次には必然的にデュラスが読みたくなります。岩井―岡山・ベトナムとデュラス―インドシナの関係って比較したら面白いんじゃないかなあ。

 それから、昔友達から借りて読んだ『花園メリーゴーランド』。日本の土俗にはどの地方にも同じ淫猥さがあります。『緋の家』の中の台本だけは少し『ジュスティーヌ』っぽかったな。

 ちなみにこれを読んでいる間のBGMはなぜかGO!GO!7188のベスト、特に『神様のヒマ潰し』でした。肉欲と純情、かけ離れているようなのになぜか近くて、志麻子ねえさんも気に入りそうな気がするのはオイラだけでしょうか…。


 以下は覚書。あんまり抜粋したら違法かもなので隠します。
あほんだらが、おめぇが僕とかゆうて気取れる面か。

いや、全般に図々しい奴は臆病だ。

大笑いではないはずの、苦笑ばかりなのに、ますます皺が増えるのは何故か。

何かの罰なのか。(中略)だが何に。(『翠の月』)

ただ風の音を聞いた。廃墟を吹く風か楽園を吹く風か。(中略)廃墟に住む者としては、そのくらいに腐乱した姿が相応しいのかもしれなかった。(『灰の砂』)

あっけらかんと着いて、色々な感傷を抱いて帰るに相応しいじゃろ。これが逆じゃったら、どんなかなぁ。(中略)暗い欲望を最初っから剥き出しに訪れて、何もかも明るい嘘にして帰るんよ。

こういうのは、祝福ではなくて呪いだと麻子は思う。

ほとんど嫌がらせのように彼は麻子好みの陰鬱な美貌を持っていて、何かの罰としか解釈できないほどに優しくしてくれた。

実は最も欲しいのは欲しいという気持ち、なのだ。

私はとっとと係累も思い出もない東京に出てきた。どこに行っても寄り添い橋は無い。

剥き出しの性欲よりも、熱烈な片思いの方がずっと羞恥は大きいのは、麻子に限ったことではないだろう。

叶うはずの無い夢は持つだけ無駄だ。永遠が手に入らないなら、刹那でいい。永遠は絵に描けないが、刹那ならば描ける。(『朱の国』)

美点と美点が惹かれあったか、美点と欠点が組み合わさって物語が生まれたか、欠点と欠点が結びついて違うものになってしまったか。(『青の火』)

枯れて美しい花があるならば、滅びて可憐な故郷や、壊れて美しい人もいる。

いい思い出の中に出てくる人は、嘘ばかりついている。悪い思い出の中に出てくる人達は、いつも本当のことを言っている。奈美栄は本当に懐かしめる過去が欲しい。

男というものは実にくだらないことで威張り、くだらないことに傷つくというのは、こんな商売を始める前からちゃんと知っていた。

目を瞑ると暗い花園めいたものが見えた。きっと、歪な蛇がいるはずの。

自称すればそうなるものと、やっぱりなれないものがある。(中略)自分は…夢より思い出が好きだ。

似非の神様は、快楽もまた素晴らしいものをくれるから有り難く質が悪いのだ。(中略)神様が悪いのではなく信者が悪いのだと、これもまた奈美栄はとうに学んでいたはずなのに、生かすことはできないでいる。(『白い影』)

「たぷたぷと浴槽から溢れそうになるほど、なんかが心にあるんじゃろ」

「プールくらいに大きな浴槽なんよ。どろっと、黒い、ううん、濃い青みたいな色の水がいっぱいに入っとる。そん中にも、何かが潜んどる。生きも死にもしとらん、何かが」

自分にもきっと、どこかに染みついた藍色がある。どんなに装っても、本当は何者であるか知られてしまう、暗い色が。(『藍の夜』)

夏になると思い出は、痩せた蜻蛉や腐った果実のように捨てられて忘れ去られていく。
蜻蛉は可憐で果実は美味しかったはずなのに、夏の涯には死骸や塵になるだけだ。
得られた時の記憶はないのに、なくした時はひどく悲しむ。

そんなつまらない証明を持ちたがる女こそが、封印されるべき夏を持っている。

どうせろくでもない、不吉な夏が吹き出してくるに違いないのだから。

サチはアクセサリーと同じく、大切な記憶もどうでもいい記憶も、すべて一ヵ所にしまってある。

あの宝石達はどこへ行ってしまったのか。捨てた覚えもなくした覚えもないのに、(中略)他にも、そうやって消えたものはたくさんある。たとえば忌まわしい夏の記憶。

ふと、祭りも異国もすべて偽の記憶ではという気がしてきた。あんな祭りなんかなかった。異国へなど行かなかった。夏はこれほどまでにいやらしい季節だ。

二人ずっと手をつないで……死ぬるんじゃけん。(中略)愛しいはずの手が、枷となる。つながりあうことが、拷問となる。(『碧の玉』)


好きになれないのに居心地のいい街や、愛しているのに壊したい人がいる―。

「狐は、美人で、華やかで、面白くて、チョとだけ、悪い女」

強いて言えば犬、か。真面目で従順で素直で。そして少し悲しい目をしている。(『赤の狐』)

この記憶を書き替えない限り、故郷には帰りづらい。帰れないのではなくて。

刹那の中にいても、悲嘆の中にはいなかった。帰れないというのは苦しみではなかった。(中略)忌まわしいものでも懐かしいものでもない。ただ遠いものだ。

健気な自分が愛しい男と生きる現実よりは、高慢な自分と貢いでくれる愛のない男、の方が演じてみたい舞台なのだった。

もっと向こうにも、怖い何かがあった。

「あなたにもっと残酷な死に方をさせてあげたい。それが愛の証」

「多分あたしは実際の舞台じゃなしに、悪夢の舞台が欲しゅうて、あえて観には行かんかったんじゃわ。」

「それはかけがえのない楽しい思い出で、めくるめく忌まわしい記憶なのですよ。」(『緋の家』)

その恥じらいこそが、初恋というどこにもない薔薇色と虹色のひとときであったろう。

色白の頬と、図画工作で使う彫刻刀の箱から一番鋭いのを取り出して、それで造形したような切れ長の眼差しが印象的だった、あの子。

意味のないことに意味があるのだとも、教えられた。その時も、後からも。(『銀の街』)


posted by くらぽー at 23:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 読んだ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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